広瀬明史 (広瀬重光刃物店)

江戸時代より代々受け継がれた技を継承する鍛冶職人

 愛知県豊田市足助町に江戸末期より二百余年続く一軒の鍛冶屋がある。一階には包丁、ナイフや農作業用の刃物が何種類も置いてある。かつては日本刀の制作もしていた老舗で、現在は様々な手打刃物や農具の製作・修理、さらにはオーダーメイドも行っている。

 

現在は5代目、6代目、7代目と親子三代で営んでいる広瀬重光刃物店。今回お話を聞いたのは6代目、広瀬明史さん。もともと継ぐつもりはなかったと言う広瀬さんは、サラリーマン生活14年を経た後、鍛冶屋を始めたのだ。「最初は何も分からないから、無我夢中で見て覚えた。」と言う広瀬さん。「20年やっているけどまだまだです。」という驚くべき言葉に、鍛冶職人の奥深さを改めて感じた。

 

広瀬重光刃物店で作られる手打刃物。何回も打つことにより分子構造が細かくなり、密度が濃くなる。それを砥石で研ぎあげることで良い刃ができあがるのだ。こうして広瀬さんが一丁一丁手打ちで作る刃物は、手入れ次第で10年以上も使うことができるのだ。

 

そんな刃物を実際に製作する様子を見せていただいた。まるで一昔前にタイムスリップしたような古い機械や大きな炉がある作業場。1,200℃程までに達する炉の前で、熱した刃を成形していく広瀬さん。「火傷はしょっちゅうあるけど、当たり前になってしまう。」と言いながら炉から赤く燃え上がっている鋼を、大きなハンマーでたたいていく。赤くなった鋼はたたかれる度に火花を散らしていた。冷めて黒くなる前に一瞬にしてバランスを整えていくのだ。

 

その横では、五代目の友門さんが回転する大きな砥石に刃をあてて研いでいた。砥石を稼動させる機械は50年程使い続けている物だと言う。刃を手で触って確かめながら手際良く削っていく姿は、体に深く染み付いている感覚からなせる技だと感じた。

 

何度もたたいては削る。この作業を繰り返して製作される刃物は、一本で迫力を感じ、とても大きな存在感を放っている。

 

そんな鍛冶屋の二階には、実は広瀬さんが作り上げたカフェが併設されている。一階の雰囲気からは想像もつかないユニークなカフェなのだ。地元のミュージシャンが演奏するステージがあり、そこにはライブと創作料理を楽しめる素敵な空間が広がっている。音楽が好きな広瀬さんと昔から喫茶店を開く夢をもっていた奥様のアイデアが出した答えだった。

 

昔は足助地区で20軒以上もあった鍛冶屋が需要とともにどんどん減ってきている。そんな中、伝統ある鍛冶屋に加えて6代目広瀬さんが始めたメニューや内装も斬新なカフェ。広瀬重光刃物店は伝統を守りながら新しい形を取り入れ、身近な場所として幅広く多くの人に親しみ続けられている。これからも、受け継がれた技術とともに新しい感覚を取り入れながら、変化し続けていくのだろう。

 

※上記の内容はすべて取材当時のものです。