こじましほ

*消しごむハンコほりほり*

 柄を選び、好きな文字を伝えると数十分程で仕上げてくれる。消しごむハンコ作家のこじましほさんは、非常に特徴的でかわいらしいキャラクターが人気のつくり手であるが、それだけでなく絵本作家としての活動やぬいぐるみの制作もしている。

 

-なじみの無かった絵本-

 こじまさんは消しごむハンコより先に、実は絵本作家としての活動をスタートさせていた。絵本は多くの人々にとって、幼い頃になじみのあるものではないだろうか。しかし意外なことに、こじまさんが絵本と出会うまでにはとても長い時間がかかっていた。

「そもそも絵本には興味が無かったんです...いや、絵本を知らなかったんですよね。みんなだいたい絵本って小さい頃読んでもらったり、読みますよね。私はそういう経験が全然なかったんです。親が朝から晩まで働いていたせいか、読み聞かせをしてもらった記憶もないんです。」

 

 こじまさんはキャラクターデザイナーを目指し、デザインの専門学校に通った。その専門学校で履修登録前に試しで受けた、絵本クラスでの出会いがこじまさんの何かを刺激した。

「たまたま三重県四日市の絵本専門店、「メリーゴーランド」の店主がその日は講師として来ていたんです。見た目はヒゲが生えて怖い顔をしたおじさんです。そんなこわいおじさんが授業で絵本を読み始めてくれたんですけど、それがおかしくておかしくて。絵本の中に出てくる“ぶぎゃー!”なんていう効果音も読むのが印象的で...内容は全然頭に入ってこないまま、ただひたすらその怖い顔のおじさんの言葉に夢中になっていました。絵本ってこんなにも面白いものなのかと単純に思ったんです。」

 とにかくとても衝撃的な絵本との出会いをしたのだという。

「授業が終わったあとに友達と感想を言い合っていたんですけど、そこで出てくる有名な絵本の名前が一つも私は分からなかったんです。『ぐりとぐら』も知らなかったんですよ。みんなから“知らないの?!”って驚かれてね...それが悔しくて、すぐさま帰りに図書館に向かったんですよ。ブワーってたくさん読みあさって、絵本の魅力に度肝を抜かれたり知らなかったことに落ち込んだり。そこからですね、絵本の世界にのめり込んでいったのは。」

 

-物語の社印から

 こじましほさんのデビュー作『へびかんこうセンター』という絵本。その物語中で必要になった演出が、消しごむハンコ制作のきっかけとなったのだという。

「物語の中に出てくる書類に、会社の社印が出てくるシーンがあります。手描きでもよかったんですけど、なんだか雰囲気でないなと思いまして。そこで消しごむハンコを作って押してみたところしっくりきてね。少しずつですが、消しごむハンコの制作も始めるようになっていったんですよ。」

 

 こじまさんの消しごむハンコは、学校の先生からの注文も多いという。小学生の頃、“よくできました”というスタンプを先生に押してもらった記憶はあるだろうか。近年ではテレビの人気キャラクターのついたハンコも充実し、学校の先生たちは様々なスタンプを使っているが、それでも先生同士で柄がかぶってきたりする。そこで、こじまさんの消しゴムハンコのことを知った先生たちが、その独特のキャラクターや自分の名前やコメントを彫ってもらえるおもしろさから、先生同士でまとめて依頼することも珍しくないのだという。

「私が使っているのは、一般に市販されているアートナイフです。鉛筆持ちができるので、私はこのほうが楽なんです。作家さんによっては彫刻刀やカッターナイフでやる人もいますよ。道具に決まりはないんです。」

 机上には彫刻刀もあるが、こじまさんはほとんどこのナイフ一本で仕上げていってしまう。

 

-キャラクターの価値を守りたい-

「私が消しごむハンコをやり始めたころはまだまだこういうのをやる作家さんも少なかったです。やってるうちにすごく楽しくなってしまってね。それで絵本が一時そっちのけになってしまいましたが、再び絵本の新作作成に向けて最近動きだしてます。」

 

 こじまさんは、近年の消しごむハンコのあり方についていくらか懸念していることがある。

「最近では消しごむハンコをつくる作家さんも増えてきました。名前に“消しごむ”と付くせいなのか、驚くほど価格を安く設定している作家さんもいます。でも、もうちょっとみんなプライドを持ってほしいですね。そこには自分のキャラクターっていうデザインが含まれているんだから。消しごむハンコをつくることって、何気に細かくて難しいことだよ。とてもすごいことをしているんだから、お客さんの見る目自体も下げてしまっては悲しいね。だからこそ私は消しごむハンコの魅力を伝えつつ、より良いものをつくり続けていきたいです。」

 絵本、ハンコ、ぬいぐるみ。描かれるフィールドは違えど、こじまさんの創り出すキャラクターは心地よい脱力感を私たちに与えてくれる。

  

※上記の内容はすべて取材当時のものです。