小森鮎子

*平面に広がる立体の美*

織物の歴史は非常に古く、エジプトをはじめフランスや中国など世界各地で織られてきた。特にエジプトの王墓から見つかった衣類は、紀元前15世紀頃のものであるとも推測されている。日本にも飛鳥時代に伝来し、今もなおその手仕事は国内外から高い関心が寄せられている。今回は京都西陣織の一つ、綴れ織のつくり手である小森鮎子さんのもとを訪れた。

 

 

-経と緯-

綴れ織は、機織り機に何十本もひかれた経糸(たていと)の列に、緯糸(よこいと)を通し、爪を使って手繰り寄せながら仕上げられていく。緯糸だけで文様を表現することを大きな特徴としている。そして織りの表面には独特のモコモコ感がうまれる。この平面と立体から表現される質感に、小森さんは非常に魅了されているという。

 

一見、機織り機でつくる文様は自由度が低いように見える。しかし、小森さんのようにみっちりと修行を積んだ手元からは“絵を描くように”作品の姿が現れてくる。「丸だって描けますよ。緯糸で描いていくのに対して、経糸は画用紙のようなものなんです。」

 

 

-突然の出会い-

もともとは陶器をやりたくて、つくり手を志した小森さん。しかし“陶器をやるなら染織が近道”という周囲のアドバイスを当時受け、テキスタイルのある学校に進んだところ、どっぷりと染織の魅力にハマったのだという。その延長戦で今の“織りの世界”に出会った。

 

そして22歳、当時まだ学生であった小森さんにある出会いが訪れる。ギャラリエでお客さんとして作品を見ていた小森さんは、トントンと肩を叩かれ「あなた、機織り機いらない?」と、突然知らないおばさんに声をかけられたのだという。機織り機を持っておらず、織りを続けたくて大学院進学を考えていた当時の小森さんにとって、これは願ってもないチャンスであった。

 

「欲しいです!って即答しちゃいました。」この出会いの思い出を、小森さんは楽しそうに振り返ってくれた。「すごくフワッフワッのパーマの人だったの。永久にあなたに貸すから、この子を大事にしてあげてねって。」

 

 

-食いしばる歯-

小森さんは公募展に出展する作品のタイトルは、全て漢字一文字で統一している。テーマ付けや創作作業の一つ一つには、常に小森さんの思い切りのよさが感じられる。しかし、人に贈るものをつくる時はあえて名前を付けないでいるという。「その人に、自由に作品をみてもらいたいからね。」

 

小森さんが織りで手がけるものはタペストリー、絨毯やバッグ等多岐にわたる。基本的に“色のイメージ”から制作にとりかかることが多いという。何色にしたいとか、何色の気分だなというように。そして何か見えてきたなと思ったら、一気に草稿を描きあげる。織りの場合、すでに最終的な長さの分までの糸が決まってから作業開始しているため、制作過程での気持ちの変化からデザインをいじり変えることは難しい。そのため、実寸大で草稿を用意し、入念な調整を事前に行うようにしている。それくらい、後戻りできない覚悟と精度の高い下準備が要求される。

 

「だから織り始めるときは、迷い無しでいくのみ!」と小森さんは元気よく教えてくれた。

 

基本的に作業している間は音楽などは流さず、無音の空間を小森さんは好む。ラジオなどを流していると時間の経過が分かり、どうしても焦ってしまうのだという。たいていの場合一日に12時間、それを7日間かけて100cm×250cmという大きなタペストリーに小森さんはいどむ。あまりにも深く没頭するため、気がつくと5時間もやり続けていたこともあるほど。

 

「気がついたら歯が痛い!!ということもよくあります。どうやら何時間もすごい力で歯を食いしばってるみたいなんですよね。」

 

小森さんの繊細な機織りの手つき、そして歯を食いしばるほど油断の許されない状況で立ち向かう巨大なタペストリー。この緊張感に見てるこちらも思わず、こぶしを握りしめる。 

 

※上記の内容はすべて取材当時のものです。