名畑雅彦

*言葉を、目に見える言葉に*

ショッピングモールの団欒スペースで、フロアを行き交う人々の足が思わず止まる。書家•言葉作家の名畑雅彦さんは、今日もたくさんの文字に囲まれ作業をしている。名畑さんは広告業や路上での備長炭の販売経験を経て、言葉をストラップや石などに書いて多くの人に発信する現在のスタイルに至った。

 

 

-原点の路上販売-

かつて路上で備長炭を販売している時、暇な時間を見つけては言葉を書いて並べていた名畑さん。世間の人がどんな反応をするかという関心が全ての始まりであった。自分が大事にしている言葉や口癖、他人から言われてずっと残っている言葉。これらを六枚のポストカードに書いて並べてみた。このとき、名畑さんはちょうど仕事も調子が悪く、今までの人生がこれでよかったのかなと思っていた時期であったという。これで世間が反応してくれなかったら、生き方を変えなければいけない。「ハダカの自分を見てもらうようでドキドキでした。」と、名畑さんは当時のことを話してくれた。

 

店に置いた初日から反応があり、1枚また1枚と売れ、予想に反して7枚売れた。名畑さんはこの喜びを早速高校の同級生にメールで報告したという。その返事には「あなたがうれしいと私もうれしい。」と書いてあった。これにとても深く感銘を受け、今でもこの言葉は名畑さんの心に残るものとして、作品の中に見ることができる。これ以外にも、書き始めた頃の言葉は何百種類も作品がある今でも、他の言葉を牽引するものとして並べられている。

 

 

-自分の分身である言葉-

大きくぼやんとしたイメージから徐々に文字を削ぎ落とし、短くしていく。「短くすればするほど、受け取る人は好き勝手な受け取り方をしやすくなる。」きちっと説明すれば解釈は狭まり、特定の受け取りしかできない。名畑さんはつくり手のメッセージとして、絶対にこのように受け取ってほしい!というような強制はしない。あくまで受け手の気持ち次第で解釈できる余地を、必ず残しているのだ。そして名畑さんがいつも考えるのは、ギリギリのバランス。文字の原型を保ちつつ、漢字•ひらがなのトメやハネ、大小が絶妙に配置されていく。

 

見られながら書くということに適度な緊張感があるものの、誉めてくれたり、反応をくれるお客さんとの時間に大きなやりがいを感じる名畑さん。「炭を売っている時は自分が作ったものではないので、何を言われても聞き流せたが、言葉は自分の分身だから言ってもらえることは本当に全て勉強になります。」

 

 

-表情の変わる言葉-

数年後こうなっていたいとかそういうのはなく、今できることを精一杯にやることを名畑さんは大事にしている。今は振り返る余裕はないけど、「今出来ることを一所懸命にやってれば、いつか振り返ってみた時に“こういうふうに自分はなりなかったんだな”と思える結果になってるはず。今はまだ振り返るというところまではきていないんです。」

 

“今”を大切にし、全力で筆をとる名畑さんの周りには自然と人が集まってくる。ある日、何度か足を運んでくれる常連が「これは新しい作品ですね?」と、以前から置いてある作品を指差すことがあったそうだ。そのときの気持ちや環境次第で言葉というものは本当に印象が変わる。文字が笑っているように見えることもあれば、その逆も。書き手の操作できないところで一人歩きを始める言葉。前向きな気持ちの時と、悲しい気持ちの時で変わるおもしろさが言葉にはある。

 

例えば「一期一会」

今この瞬間、みなさんはこの言葉からどんな印象を受けとるだろうか。

 

※上記の内容はすべて取材当時のものです。