大下邦弘(KUNI Glass Factory)

*宇宙から見える地球の青さをガラスに*

 融解されていく様子は非常に美しく、髪の毛よりも細く飴細工のようにつややかに伸びるガラス。自宅の一角をアトリエとして改造し、1100℃を超えるガスバーナーを駆使して大下さんはガラス作品を制作している。

 

 

-神経を研ぎ澄ましながら-

 プロパンガスを酸素で燃焼させながら、ガラスを融解するバーナーと保温用のバーナーを使ってガラス棒を加工していくランプワーク技法。大下さんは掘りごたつのように改造された作業スペースで、口に空気を送り出すパイプをくわえ、足元のペダルを調節しながら制作していく。

 

「ガラスはだいたい600度より下回ると割れてしまうので、下から保温用のバーナーをかけつつ作業していきます。そして息を少しずつ送り出していきます。舌と上顎の間に空間がありますよね?そこに溜めた空気を、舌で少しずつ押し出し部分的に空気の足りないところに加えていくんです」


 ほんの少しの空気量で形もだいぶ変わってしまう、非常に繊細で神経を研ぎ澄ましながら形を整えていく。さらにそれと併せて、足元のペダルで車のアクセルのように上下させながら火の量を調整していく。

 

 使っている耐熱のガラス棒はドイツのショット社製をはじめ、アメリカや日本製のもの。何百種類もの色がメーカーから出ているが特にドイツ製のものが一番綺麗な色を出すので気に入っているのだという。

「ガラスは絵の具と違って赤と青を混ぜたら紫になるということはないんです。全て金属のイオンで色がついているので、金属イオンをどう混ぜるかが大事になってきます。例えば緑を透明にしたいなと思ったら紫を入れたりするんですよ、不思議に思えますよね。色を作り込むことに何日もかかることもあります。」

 

 

-腹をたてないこと-

 大学では建築を専門に学び、その後は住宅設計会社や公務員などを経て、念願の富山ガラス造形研究所に独学で合格。小さい頃からきらきらしたものが好きだったという大下さんがようやく夢への第一歩を踏み出した瞬間であった。


「校庭に落ちている石英とかああいうのがカラス並に好きな子どもでしたね。その延長でこういうガラスが好きなのかもしれないです。たとえ欠けてもキラキラしているし、材料自体も綺麗だし。とても素敵なものですよね。」

 

 器だけでなく、大下さんの作品には昆虫などもいくつかある。特にトンボのモチーフは多くあり、その繊細な手足の作り込みや羽根の透明感には目を奪われる。

 

「例えば、画家は絵の中に自分を写らせてみたり、人形を作る作家は自分自身を人形に写らせてみたりすることがあると思います。私が制作をする際に、ガラスの中にいる自分の姿はどうもトンボのようなんです。振り返ってみるとトンボはいろんな面で私と縁の深い昆虫でして、自然とそういうモチーフが多くなってきました。」

 

 昆虫嫌いな人が見ると、少し怖さも感じる大下さんのトンボやアメンボ。それほど忠実に、そして他の生物群には無い昆虫らしい神秘さがガラスによって表現されている。

 

「ガラスは案外おしゃべりなんです。“今はタイミング遅かったな”とか言ってくれます、そのおかげで出来るってこともあります。上手くいかなくて腹をたててしまうと、ガラスが喋ってくれなくなりますし。『今は何がいけなかった?』と会話をする気持ちをもたないとだめですね。」

 

 

-命がけの色づくり-

「自分だけのものを作りたかった。これがあれば大下だろうみたいな。そこで色を開発したいなと思ったんです。宇宙から見た地球の色がすごく好きで、その色の研究に没頭しました。」


 そして時間をかけようやくその色を出すことに成功した大下さん。深く美しいその青色は“形は真似されても、色は真似されることはない”という考えのもと、非常にリスキーな工程を経て作り出されているという。

 

「特許を取ろうという話も最初はあったのですが、その場合どうしても作り方を開示しなければいけなかったり維持費がかかります。それならば、私の心の中に作り方をしまっておこうと思ったんです。私の色をどうやって作ったらいいのか気になり、追い求めてくださる方も多くいますが、そのノウハウは決して言いません。むしろそのように必死に模索しているうちが、きっとその人にとっての“答え”だと思うので、その人にとっても大切な機会だと思うんです。そしてこれを作る過程には、身体にとってすごく良くないことをします。その方法でしかこの色は出せないのですから。覚悟をもって色を研究しています。」

 

 誰にも出来ない色で表現したいという強い気持ち。大下さんは自らの健康、命を削ってまでも色づくりをしている。

 

「自分のためにではなく誰かのためにつくっていて、その誰かに渡すときまで私が預かっているだけなんです。そして渡す時になって、『そっか、この人のために作っていたんだな』って思える人のところにいくものなんです。それがすごくおもしろくて。そういう見えないもの、縁を感じれるようになってきました。」

 

 文字通り全身全霊を込めつくり上げる作品には、どれも優しく透き通る大下さんの深い想いが込められている。

 

※上記の内容はすべて取材当時のものです。