竹内繁春(食品模型のアイディア)

*止まらない、進み続ける日本のサンプル技術*

 レストランや喫茶店など飲食店の出入り口でよく見かける食品サンプル。その立体的な表現は、写真を通して見るメニューとはまた別の感覚で私たちの食欲をかきたてていく。大正時代から続くこの文化は次々と驚くべき進歩を遂げてきた。今では本物をより明確化したものや、動きを再現したものなど、その技術は瞬く間に人々の心を魅了していく。

 

 竹内繁春さんは、そんな新しい食品サンプルをつくり出す職人の一人。「食品模型のアイディア」を夫婦で営みながら、現在も日々研究に打ち込んでいる。

 

-見せる食品サンプル-

 食品サンプルを制作する際に、竹内さんが最も重要視しているもの。それは作品の“見せ方”。そこには大きく分けて2つの特徴がある。

 

 ひとつは食品そのものだけではなく、さらに調理器具をプラスさせて見せること。

「昔はただ単にサンプルを平面に置いていただけだったんだけど、それだとどこでもやってることだからおもしろくない。僕の場合、絶対にサンプルケースの中に作品をさらに引き立たせるための道具をひとつ置いて飾るようにしてるんだよ。ひとつ工夫があれば『どうやってつくってるんだろう。』って思って誰かが振り向いてくれる。それがあって初めて工夫とアイディアが生まれるんだ。」

 こうしてつくられたものは、「下からコンロをあてた味噌煮込みうどん」や「いろりと一緒に置いた鍋」。燃え上がる火まで電気を使って表現している。竹内さんはサンプル食品に、本物と同じような“つくりたての温かさ”を加えることに成功したのだ。

 

そしてさらにもう一つの特徴。それは、作品に“動き”をつけること。

「動きがあるサンプルは“アイスコーヒー”から始まったんだよ。その当時は珍しい飲み物で、ピッチャーの中のフレッシュをどうやって飲むんだろうって考えたくらいだよ。だからフレッシュをアイスコーヒーに垂らして、グラスの中でふわふわって混ざり合った瞬間を一つのシーンにしてつくったんだ。でもその時に白い液体だけ垂らしてもおもしろくないと思ってピッチャーを一緒に浮かせたのが最初なんだ。」

 

 その後竹内さんは誰もが想像しないような動きを付けた作品を、次々とつくり出していった。中でも中華鍋の上を舞うチャーハンは、サンプル業界から初めて国美藝術展特別賞を受賞するという快挙を成し遂げている。竹内さんの“見せ方”は、食品サンプルを販売促進という本来の役割を超えて芸術品に変えた。

 

-色で味付け-

本物の料理と同様、サンプル食品ひとつを制作する際にはたくさんの“食材”が必要となる。

 

「サンプルはいかに早くできるかが勝負だよ。ここに来るとすぐになんでもできるよ。」といって竹内さんは作業場を見せてくれた。大きなオーブンに流し台、そこはまるで飲食店の調理場と変わらぬ景色。食材は砂糖や塩コショウの粉類からお米や麺類、そして一つ扉を開ければそこは野菜やお肉に魚介類、どんなスーパーマーケットも敵わないほどの品揃えだ。

そこから食材を取り出して、ひとつひとつ絵の具で色付けをしていく。

 

「サンプル屋さんは色で味付けるんだよ。もともと料理が大好きだし、食べることも大好き。魚の切り身にしても野菜にしてもどこをどんな色で塗るのか、また油で炒めたり、揚げたりすることでどんな色が付くのか、全て頭に入ってるんだよ。」

 

竹内さんはたった数種類の絵の具で、あっという間に本物のような見た目を再現してしまう。こうして和食や洋食、中華までどんな料理もこの作業場ならぬ“調理場”で作り上げていくのだ。

 

最近では研究に研究を重ね、材料を変えることで質感までも本物に近づけているという。

「作るたびに上手になってるねってお客さんに言われるんだ。」と竹内さんは嬉しそうに話してくれた。

 

-サンプル技術をもっと身近に-

次々と新しい作品を作り続ける一方、竹内さんは密かに別の場所で力を注いできたものがある。それは子供会でのサンプルパフェづくり体験。週末になると、あらゆる地方の体育館やコミュニティセンターへ足を運び、子供たちにサンプルの技術を教えているという。

 

「呼ばれればどこへでも行くよ!やっぱり食品サンプルは、昔からの日本独自の文化だから大事にしなくちゃ。絶えさせちゃいけない。子供会は最初の30分間に必ず蝋細工の実演を行うんだよ。蝋細工なんて今やる人がいないから、昔はこんな風に作っていたんだよって実際に作品を作りながらサンプルの面白さを伝えるんだ。まずはそこから入り、次に実践に入っていくんだよ。」

 

 こうして子供たちは歴史を学びながら制作に取り組んでいく。

 パフェづくりはストロベリーやチョコレート、12種類の中から好きな味を選び、生クリームを自分で絞ってフルーツを盛りつけるという本物のような作り方で行われる。このスタイルは竹内さんの生み出したアイディアが可能にさせたのだ。

「生クリームにシリコンを使ったときは、『こんな使い方があるのか』ってシリコン屋さんが驚いてたよ。」と話してくれた。

 

 

つくり方のルールがなくお手本のないサンプル業界。全てが手探りで、失敗と研究の連続。

そこから竹内さんがつくり出す一味違ったユニークな作品は、まさに積み重なった努力と多彩なアイディアの賜物である。

 

※上記の内容はすべて取材当時のものです。