谷口昭夫 (鈴木バイオリン製造株式会社)

*120年のバイオリン技術を守る継承者*

名古屋市中川区に手作業で一つずつバイオリンを製造する職人たちの仕事場がある。入り口に建つ、創始者・鈴木政吉の銅像が長年の歴史を感じさせる。

 

鈴木バイオリンの特徴。「材料加工」「手工」「塗装」「仕上げ」の大きく分けて4工程あり、その中で細かく分けて120ほどある工程を分業製作している。数多く作るために政吉が考案したシステムで、バラつきのない安定した商品を作り続けているのだ。

 

ここ鈴木バイオリン製造㈱で塗装一筋54年目を迎える傍ら、工場長として全体を取りまとめているのが谷口昭夫さん。「私はバイオリンを弾かないよ。」という谷口さんの口から出た意外な言葉。長年バイオリンの製作に携わってきたという背景からは、想像がつかない言葉だった。谷口さんは、「職業訓練所で塗装技術を勉強して、たまたまの縁で入ってきたんです。ものを作るのが好きだからやっている。」と話してくれた。「どの程度楽器作りに思いを打ち込めるか。木を相手にしているから忍耐力があって没頭できる人でないといけない。」と言う。

 

谷口さんが手がける「塗装」。まず着色ニスで15~20回ほど塗り、次に保護ニスを5~10回ほど塗っていく。ニスを一日一回ずつしか塗れないので、塗装だけで20~30日かかるのだ。

 

塗装の前後でバイオリンの表情が大きく変わるのかと尋ねると、「もちろん。塗装で一番大切なことは楽器の雰囲気を作ること。顔を作るようなもので、言葉を変えれば女性の化粧と一緒なんですよ。」と教えてくれた。谷口さんが塗装を行う作業室。長年使い込まれていることが伝わる塗料がずらりと並んでいる。オレンジ系からブラウン系まで色も豊富にあり、調合しながら作っているのだ。谷口さんが手に取り見せてくれた25年ほど前の作品。谷口さんは「もともと色がついているものだけど、退色して雰囲気が変わってくる。色の変化を見て、色の抜け方を勉強している。」と言う。作業室に置かれたいくつもの作品は、製作後、何年も時を経たものだった。

 

また見た目だけではなく、木は気温や湿度の変化によって影響を受けてしまうため、時期に合わせても組み合わせる塗料を変えて工夫をしていると言う。「木は生き物ですから。」と言う谷口さんの印象的な言葉。常により良いものを求めて研究し続ける谷口さんの姿勢は、バイオリンへの深い愛情を感じさせる。

 

今回、実際に見させていただいたバイオリン製作のいくつかの工程。木材をある程度、バイオリンの形に削る「荒削り」以外はすべて職人が手作業で作り出している。カンナと言っても何種類もの形があり、削る場所によって使い分けていた。またボディとパーツを取り付ける工程では、少しの隙間も作らないように神経を使って少しずつ微調整を繰り返して製作されていたのだ。

 

それらの技術を身に付けるため、会社が3年は若い職人に投資するという。その与えられた期間の中でいくつかの工程をマスターしていかなければならない。谷口さんは「塗装は30ほどの工程があるが、30マスターできる人間は10年以上経っていないとできない。」と言う。そんな厳しい環境の中で技術を習得していくのだ。

 

一人で作りあげてそれぞれの顔にするのではなく、一人一人の職人の技術が組み合わさって出来る鈴木バイオリンだからこそ、お客様に信頼と安心感を与えることができるのだろう。

 

そしてこの形は変わり続けることなく、これからも受け継がれていくだろう。

※上記の内容はすべて取材当時のものです。