坪井香保里

*「その時」にしかできない思いを形に変えて*

  たくさんの人の目を一瞬で奪うカラフルでかわいらしいデザイン、そして同じ物が並ばない作品たち。坪井さんの遊び心ある作品を初めて見たとき、幼い頃抱いたようなわくわくした気持ちが生まれた。ぬいぐるみや粘土で作られた小物、個性的な絵たちがそれぞれ違う表情を持ち、どんな人も虜にしていくにぎやかな世界を作っていた。

 

―アナログの世界―

 大学のデザイン科を卒業後、一度は印刷会社に就職をした坪井さん。ところがパソコンでデザイン制作をするうちに、「手で書くこと」が無性にしたくなったという。そして仕事後の自由な時間に、一人暮らしの小さな空間でもできる粘土制作から始めたのだ。作っていると、今度は人に見てもらいたいという思いからイベントに出展。

「一回で終わるかと思ったら、やみつきになってしまい…。喜んでもらえると思うと、また違う物を作りたくなって。」

学生の頃にあこがれて入ったデジタルの世界。しかし、ここから坪井さんは今までとは対照的なアナログの世界へと入り込んでいく。

 

―正直な絵―

 布をいじっては絵を描きたくなって、絵を描いてはまた布をいじって。このくり返しで好きなときに作品を作る。そんな坪井さんが作り出す作品の中には、一つとして同じものはない。全て「その時」にしかできないものなのだ。特に絵に関しては、本当の自分の気持ちが表れるという。その時の自分には戻れないので、たとえ二回目に同じように描いても、同じようにはならない。

普段は「人」をあまり描かないはずの坪井さんが、お地蔵さんを作りたくなった時期があった。その後しばらくして待望の息子さんが生まれた。

「何かつながっていたのかなって。絵のほうが自分自身よりも自分を先に知っているというか、正直なんですよね。絵を描く時は自分をさらけ出している分、描いたあとはヘトヘトで疲れるんです。」

坪井さんの気持ちが、全て手を通して形となって現れていく。

 

―型にはまらない作品作り―

 「頭の中で考えることより、偶然の方がよっぽどおもしろい。」

頭の中に完成予定図があっても必ず裏切られる、道にそれてしまうのだと坪井さんは教えてくれた。何度もそれて出来上がる作品は、自分自身もびっくりで良い作品に仕上がるという。常に新しい発見がある、これが坪井さんのスタイルだ。

 

出産を経験し、一児の母となった坪井さんの作品は新しいユニークさを感じさせる。今は息子さんに影響を受けた作品が多いそうだ。例えば、アルファベットの人形や数字の絵。これらには、「作りながら息子と遊べたら楽しいな。」という思いが込められている。

中には子供たちが無心になって自然に手を動かして書いた物に、坪井さんが手を加えて仕上げていく絵もある。これは決して坪井さんだけでは生まれてこないデザインへと成る。

坪井さんは自身の理念を、「こだわらないことにこだわっていることかな。」と教えてくれた。自分の好きな色やデザインでかためるのではない。周りの環境も取り込みながら、今後もどんどん作品の幅を広げ、私たちを楽しませてくれるだろう。

 

※上記の内容はすべて取材当時のものです。