榊原豊大郎 (榊原タタミ店)

*畳の良さを一人でも多くの人に*

 私たち日本人の生活に古くから根付く敷物である畳。だが、その作り方や起源について知っている人は少ないだろう。愛知県西尾市にある榊原タタミ店5代目店主の榊原豊大郎さんは、昔ながらの日本家屋の畳の張り替えや新たな素材を使った畳の製作などの仕事をする傍らで、現代人の畳離れを防ぐべく様々な体験教室を開いている。

 


-畳の文化を観光資源に-
 榊原タタミ店に一歩足を踏み入れると、まるで小学校のようなかわいらしい書き込みの施された黒板が目に入る。店舗内で行われている体験教室の案内だ。

 

「一番人気なのは豆畳作りですね。可能な限り実際の畳作りに近い工程で作れるように工夫してあります。他にも畳縁を使ったカードケースやコースターなんかも作れますよ。」

 

 豆畳作り体験は、好きなござや畳縁を選んでオリジナルの小さな畳を作ることが出来るものだ。良い香りのするい草やカラフルな和紙などござの種類も様々だが、特に面白いのは縁の種類の多さだろう。体験教室のために集められたというそれらは、一般的な和風の柄はもちろんのこと、少し洋風にも見える花柄や文字をあしらったユニークな柄、熊本製の国産い草を使用しているということでくまモン柄の縁まであって選ぶだけでどんどん時間がたっていってしまう。

 豆畳作りは少し難しいところもあるがわかりやすい説明と細やかなサポートで誰でも気軽に挑戦できて、お値段も500円からとお手ごろ。

 

「畳は何百年も前からずっと長い間受け継がれてきた良いものだから、これからもずっと残っていって欲しいんですよ。それに、西尾は「観光のまち西尾市」を目指していますが遊べる施設が少ないので、いろいろな体験教室をやることで地元の活性化に貢献できれば良いと思っています。」

 

 作業をしながら、古事記や日本書紀まで遡るような畳の起源の話や江戸時代の畳の使われ方など様々な知識も教えてもらえる榊原さんの体験教室は、地元のテレビ局や観光雑誌などにも取り上げられるほど人気を博している。

 


-フルオーダーの畳-
「畳」と聞くと、全て同じ寸法だと思われがちだが、榊原さんが扱う畳は全て一部屋一部屋フルオーダーで作られている。そのため、機械の導入は最小限に留められ作業のほとんどが手作業だ。

 

「都会のマンションなんかに置くような全く同じ形の畳を作るなら機械の方が精密ですけど、私が扱っている畳はそれを敷き込む部屋の柱の位置との兼ね合いなんかで形が一枚一枚全部違うんですよ。そういう畳を全部ロボットの機械で作ると、二厘(0.6ミリ程)くらいの誤差が出てしまって。その辺は人間が手でやった方が細かい対応が利くんですよ。」

 

 榊原さんの畳作りは、柱の凹凸や部屋の微妙な歪みにも合わせる繊細な作業をしている。

 

「他の畳屋さんから、こんなの持ち込まれたけどうちじゃできないからやってって頼まれたこともありますよ。その時は壁が鋭角やS字に曲がってたので、その曲がり具合にあわせて全部ミリ以下単位で寸法とってやりましたね。細かい作業は元々好きなので苦はないですし、他の人がやれないような仕事が出来ると達成感がありますね。」

 

「作り方だけでなく材料にもこだわっていますよ。うちの一番のおすすめは『すっぴんい草』で作った畳ですね。普通の畳は表面のい草を泥染めしてあるんですけど、今時の気密性の高い家屋だとこの泥がカビの大きな原因になってしまうんですよ。泥染めしてない分滑りやすくなるので畳張りの作業が大変になりますけど、そこは腕の見せ所ですね。ただ時間はどうしてもかかってしまうので、大量生産はできないんです。」

 

 すっぴんい草とは小さなお子様やアレルギー体質の方にも安心な超自然素材のい草。しかしそれを扱う農家は数少ないのだという。そんな希少な素材とめぐり合えたのも、「自分が作った畳の上で暮らす人がより快適に暮らせるように」とずっと考えてきた榊原さんの努力の賜物といえるだろう。

 

 ※上記の内容はすべて取材当時のものです。